【spiral cnockwaiz】 第一話 はじまりの遺跡

「僕は 焦ってない。時を待ってるんだ。」

 

 

七色の虹が架かる頭上に 鳥たちの羽ばたきが通り過ぎる。
珊瑚の峡谷に眠る古代遺跡群を眼前に、
リュカオンは云い放った。
古えの聖者が遺したと言われる、旅人を導く扇杖が
二枚貝の祠に掲げられている。
何かが、不穏で、それでいて美しい海底のような
拡がる谷の景色に、旅の出で立ちをした人影の姿が佇む。

 

「目に見えないものを捜す旅だ。
答えはすぐには出ない。
だけど、僕はこの世界に何を残せるだろう。
この手の中には、なにひとつ、掴めないままでいるけれど――――――――
ただ、漠然と、通り過ぎるだけの『明日』にはしたくない。」

 

そう云って兎耳の生えた獣族の少年は
前方をキッと見据えた。

 

「リュカオンの見つめるものは、先に、1つ、あるわけだ。」
続けて答えた真紅のフレアスカートを着たくるくるハニーブロンドの
魔法使いらしき出で立ちの少女がにっこり、微笑いかける。

 

それまで2人の背後で岩場に腕組みしながら凭れて立っていた剣士が
ポツリ、と呟く。
「険しい旅になる事は理解っているのか?
足手まといは ゴメンだ。」

 

「アルカディア!そんな言い方はないじゃないのよぅ」
少女が ぷぅっと 顔を膨らませて
両手をぶんぶん振り回す。
アルカディアと呼ばれた長銀髪の剣士は、フン、と横を向いた。
「シャルロッテ、アルカディア、僕の旅に同行してくれた事を感謝している。
僕は決めたんだ。僕は僕の運命に対峙しなくちゃいけない。5年前のあの日起こった運命の日、
その決着をつけなくちゃいけない、自らの手で。
その為には、仲間も、力も必要だ。
真実は世界に蔓延していて悪意や偽りに覆われている。それに打ち勝つ為には
『ほんとうのこと』を見極める命が必要だ。
僕は捜したい、見つけ出したい。
その為に なにが出来るのか、
目の前を切り開く勇気を、
目の前に拡がる道を歩むんだ。
自分自身を信じたいんだ。」

 

「まぁ… リュカオン おマエのその眼差しが俺達を動かした。俺にも俺自身の使命が在る。シャルロッテも同じだ。
皆、それぞれの歴史と自念を生きてるんだろうよ」

 

「アルカディア、わかってるじゃん。
あたしだって、目的があるわよ。
でっかい目的がね!
その為に、ここを 訪れたんじゃん」

 

そう、眼前に拡がる古代遺跡―――――『ASRAN遺跡』。
石灰質の白骨のような奇抜な形状の
鳥の殻を重ねたような峡谷の中央に聳える塔。
その中に、彼らのはじまりの旅の目的である、“あるもの”が眠るという。

 

水のアルカナ
火のアルカナ
風のアルカナ
地のアルカナ

 

この世界には四大精霊力をアルカナという聖石に封じ込め、
その不可思議なちからを様々な魔力=原動力として動かしている。

 

リュカオン達がこのASRAN遺跡へやって来た目的は、
旅の途中、冒険者のあいだで聞いた
『風のアルカナ』の巨大な結晶体が
眠っているとのウワサを聞いて、
獣族と人間のハーフの少年リュカオン、
長い銀髪の剣士アルカディア、
魔法使い見習いの少女シャルロッテの
3人は探索に出発したのだった。

 

「さァ、休憩は終わり。
ASRAN遺跡の入り口に向かうわよ!」
少女シャルロッテが遺跡に向かって元気よく駆け出した。
そのあとを、2人も続く。

 

―ぼくは、『ほんとうのこと』が知りたい。
第一歩を踏み出す、始まりの勇気を。―

 

 

 

 

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